第3回「アーティストになる」、生き方②

アートとともに生きていく、あなたのために。

前回は、「アーティストになる」ことについての質問にお答えしました。

そのなかで、少し抽象的な議論にも足を踏み入れてしまったかもしれません。アートをめぐる問答である以上、多少の抽象性や思弁性を帯びてくるのは仕方のないことです。

今回もまた、できるだけ具体的な質問からはじめつつ、「アートとともに生きる」ための思考をめぐらせていきましょう。

「アーティスト活動と仕事は両立できるの?」

「どんな仕事が向いているの?どんな働き方?みんなどうしてるの?」

一般的に、アーティストとして活動している人の多くは、他の仕事と両立しながら生活している兼業アーティストです。どのようなジャンルであれ、アーティストだけで生計を立てていくのは簡単ではありません。ですから、他の仕事との両立ができるか、できないかではなく、兼業は不可避なものだと覚悟しておいたほうが良いです。少なくともキャリアが浅いうちは、アーティスト活動と両立できる仕事を探すことになるでしょう。

とはいえ、アーティスト一本でやっていきたいと強く思っているのであれば、いつまでもダラダラと兼業でやっていくことは、かえってマイナスになる場合もあります。

兼業であるということは、アーティスト活動に100%の時間と労力を割けない、ということでもあります。もし、大きなチャンスがめぐってきたとしたら、兼業の状態ではそのチャンスを活かすことができないかもしれません。ある程度真面目に活動を続けていれば、そんな選択の瞬間がやってくることでしょう。そのような時には、思い切って、アーティスト活動に専念するために他の仕事を辞める、という選択が必要になるかもしれません。

一方で、兼業の状態のまま充実したアーティスト活動ができる、あるいは、他の仕事と両立しているからこそアーティスト活動も充実している、というケースもあるでしょう。

国内で多く見られるのは、教育者とアーティストの兼業です。日本のアーティストの多くが、美大の教授、講師や公務員(小中高の教諭)との兼業であることは、これまで度々問題視されてきましたが、問題なのはそれぞれの活動、仕事の質なのであって、教育者との兼業自体が悪いわけではありません。

たとえば、兼業の仕事から学んでいることが、アーティスト活動の糧になっていることもあるでしょうし、兼業の仕事が経済的な安定だけでなく、精神的な安定をもたらしていたり、創造力の源泉になっていることだってあるでしょう。

「自分の作品に自分で価値をつけることや、自分のギャラ交渉などがとてもむずかしい。どうやったら納得する金額をつけられる?」

これはとても具体的な質問ですね。

絵画作品や彫刻作品、出演料、キュレーションフィーなどの場合、だいたいの「相場」というものがあります。一般的には、相場に合わせて価格を決めていくことになります。

相場は、いわば業界の暗黙知のようなものなので、どこかにリストがあったり、掲示されていたりするわけではありませんが、ギャラリストや同業の先輩などに聞けば教えてくれるでしょう。

しかし、特殊なインスタレーションやかたちの無い作品、見積もりの難しいプロジェクトなど、業界の相場があまり役に立たないケースもあります。

そういう場合は、自分で基準を考えて、値付けや取引の条件を決めていかなければなりません。もし不安がある場合は、信頼できる同業者や交渉事に強い人に相談したり、同席してもらったりするのも良いと思います。

アーティスト活動をする上で、値付けやギャラ交渉は切っても切り離せない重要な仕事ですが、苦手な人はとことん苦手で、自分の力だけではどうしようもないこともあります。そういう人は、無理にひとりで何とかしようとせずに、きちんと他人に頼りましょう。

「親の理解は必要?」

これまでとは違う角度からの質問ですが、とても重要で、難しい質問です。

まず大前提として、親との関係性は家庭によって異なるものなので、一般的な回答は存在しません。関係性によっては、無理に理解を得ようとするよりも、親子の距離を置いたほうがよい家庭もあるでしょう。

なので、厳密に言えば、この質問に対しては、ケースバイケースであるとしか言いようがありません。

しかしその上で、この質問を、次のように読みかえてみるのはどうでしょうか。

「〈自分の理解者であろうとしてくれる人〉の理解は必要?」

アーティスト活動をして生きていこうと決めたあなたにとって、身近にいる「自分の理解者であろうとしてくれる人」を思い浮かべてみてください。それは友人かもしれませんし、恋人かもしれません。先輩かもしれませんし、上司、先生、もしかしたら、親かもしれません。

それが誰であれ、もし、「自分の理解者であろうとしてくれる人」からの理解が得られていないのだとしたら、あなたはまず、理解を得るための努力をしてみるべきです。

アートが人間の営みである以上、誰からも理解されないアート、というものはありません。「自分の理解者であろうとしてくれる人」の心すら動かせないようであれば、それはあなたの才能や能力以前に、アーティスト活動に対する熱意や努力が足りないのだと思います。

さて、今回の紙幅も尽きてきました。「アーティストになる」ことについての回答は、今回で一度区切りをつけたいと思います。

まだまだ、質問はたくさん来ていますし、新しい質問も大歓迎です。ここまでの回答を読んで、疑問に思ったことや聞きたいことがあれば、ぜひ、窓口に送ってください。

次回は、「アートに関わる仕事につく」ことについての質問にお答えしていきます。


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